企業訪問レポート

NPO法人アサザ基金

アサザ基金の所在するところは、茨城県の牛久市というところである。そこは、都心から約40分という所にあるが、都会とは、全くことなる自然豊かな町並みが広がっている。そこは、昔、放棄された畑や田んぼなど荒れ果てた土地が広がっていたそうだ。また、全国で2番目に大きいされる霞ヶ浦は、護岸の建設により、湖がよどみ、またアオコが大発生が起こり、水道水の水をそのまま飲むこともままならなかった。

その霞ヶ浦の水質汚染を改善するために、飯島さんは汚染源を見つけ出し、そこのみ改善するというような自己完結型の事業ではなく、湖と流域全体の自然と社会に目を向け、自然と社会の新たな関係性を築こうとなされた。そこで、水辺に育てたアサザを植えるという、誰もが行える「市民型公共事業」を創り上げられた。このアサザで霞ヶ浦の水質を改善し、豊かな自然の再生を行う「アサザプロジェクト」の中心となっているのが「アサザの里親制度」である。これは、霞ヶ浦で育ったアサザの種子を、市民が種から育成し、成長したアサザを湖に植え戻すという取り組みである。また。アサザが定着するまで、アサザを波から守るために、建設省と森林組合が連携し、間伐林や粗朶で粗朶木沈床をつくられた。

また、この「アサザの里親制度」は学校単位でも行っている。この環境教育は、調べて学び、そこから問題の所在を明らかにし、問題解決のための手段を考え、実行し評価するという、問題解決型の総合的な教育のプログラムにもなっている。その、小学校を各地域の拠点としながら、学校と様々な組織が連携しあい、社会の有機的なネットワークが構築されている。さらに数多くの企業とも連携を図っている。谷津田を再生するために、企業の社員の方々と地元の農家さんが一緒に田んぼを耕し、完全無農薬でお米を栽培している。また、そのお米は地酒にもなり、その販売も行っている。

飯島さんは、そのアサザプロジェクトを中心として、社会システム全体を再生しようとしている。社会問題に対して、ある一部に対してのみの自己完結をしてはいけないのである。本当に今存在する社会問題を解決したいならば、社会システム全体を見渡し、有機的なネットワークを構築していかなければならないのである。一つ一つの組織や専門性を持った主体が、自己完結的に問題を解決するのではなく、もっと相互にネットワークをつくり、総合的、多角的に問題をとられ、様々な方向から問題解決のためのアプローチをしていかなければならない。

様々な社会問題が絡み合い、複雑化している現代では、従来からの一個体が対症療法のような自己完結する方法ではもう、社会の問題は解決できなくなってきている。地域の市民、行政、企業、研究機関などが有機的につながりあり、互いに関係性を見出していく必要がある。そして、新しい付加価値、価値観を常につくりだし、社会を変容させていき、よりよい社会にしていく。少しずつ、変革ではなく変容なのである。一度に変えられることはない。少しずつ、社会の価値観やシステムを変容していき、長期的なスパンでものごとをとらえていかなければならない。そしてそのような多様な変容が、後に社会システム全体の変容につながっていく。と飯島さまはおっしゃられていた。

それと、私にとって心に残っていることばは、社会や人間は”関係性”の上で成り立っており、自己のアイデンティティというものは存在しないということである。

生物多様性も”関係性”とおっしゃっておられた。人や生物・生き物は”関係性”の中で価値や存在意義がうまれる。その関係性(まわりの環境)が変化すれば、その価値やそのものの役割は変化していく。そのため、人には、確たる”主体性”はない。アイデンティティの確立とはよく言われるが、そのようなものは不自然なものだと思った。それは、生き物、私たち人間は本来は周りの環境”関係性”により日々変化するものなのである。しかし、確たる、統一された、変化することのない、主体性・アイデンティティというものが存在すると、だと誰もが疑わなくなってしまった。どのような変化にも、自己を変容させることなく、確たる、揺ぎ無い主体性・アイデンティティがある。自己はいつも統一性がないといけないという呪縛にとらわれているため、多くの人々は自己の変容や確立のために苦しめられているのでは無いかと感じた。関係性により、日々、私たちは変化しているのだから、その変化に素直に従い、自然の関係性に逆らうことなく、その関係性の変容に適応しながら、生きていけばよいのだと思った。また、直感や感じたこと、感性を素直に受け止め、自然の流れに素直に従って生きれば、素直に生きられ、もう少し楽に存在することができるのではないかと思った。

それと、社会はすべてつながっており、有機的ネットワークがとても重要だとおっしゃられていた。現代は中心的組織が必要なのではなく、多様な結びつき・有機的なネットワークが必要である。細分化された社会は、そのひとの価値観・視点に固着し、社会全体を見渡せなくなってしまうのである。様々な関係性が分断され、個々に存在する世の中から、各個人や組織がつながりあい、多様なネットワークを築いていくことが、社会への変容の第一歩なのだと思った。

飯島さまのお話を伺い、すでに与えら得るものは用意されている(いくつか)それを素直に受け止め、それを表現し、社会や自分の外に表出すればいいのだと思った。そのため、素直にあることを受け止め、社会に現すものなのだから、人類みなすべてがアーティストなのだなとだと感じた。

当日は、初めに飯島様のお話を伺い、その後、現場を見させていただいた。神谷小学校やホギメディカルという企業が行っている谷津田再生事業を見学させていただいた。前は放棄地だったとは思えない程、素晴らしい田んぼでトンボが飛びまわり、自然豊かな場所であった。自然を破壊するのは容易だが、自然を再生するのはとても苦労をともなうものだなと改め思った。しかし、このような素晴らしい自然環境を保てているのは多くの人が関わり、地道な努力を積み重ねてきた結果なのだなと感じた。

当日はお天道様が元気でとても暑かった。しかし、きれいな澄んだ空で、雲がとても近く感じられた。また、緑や自然が豊かで、空の青、雲の白、田んぼや木々の緑のコントラストがとても美しかった。