企業訪問レポート

株式会社ツムラ

法政大学大学院坂本ゼミに同行させていただく形で、社会起業大学メンバー7名で、鎌倉投信が主催する株式会社ツムラ・芳井順一社長のセミナーに参加してきました。

場所は東京・赤坂のツムラ本社ビル。
議員宿舎のとなりのためか、車の通りも少なく、静かなロケーションです。
セミナー場所は会議室で、総勢約40名の参加。
登壇された芳井順一社長は、体は大きいのに声が小さく、囁くような話し方。
「いい話がいっぱい聞けそうなのに、こんな声で届くのかな?」とちょっと心配でしたが、話が進むにつれて、目も耳も全開、ぐいぐいと引き込まれて行きました。

芳井社長は大手製薬会社に25年間勤務し、主に新薬開発に従事されていましたが、職場の上司(ツムラ前社長)に「手伝ってほしい」と請われ、ツムラに入社。

経営危機、そして回復

芳井社長が入社された95年当時のツムラは、壊滅的な危機を抱えていました。
多角化経営の失敗で赤字の垂れ流し状態、銀行から新規融資も受けられない状況だったのです。

・売上1000億円企業だったが、経営の多角化に失敗し、債務は売上額以上あった!
・当時の社長の特別背任罪が発覚!
・売上比3割を超える主力商品で、副作用による死亡者が。その分の売り上げが飛んだお陰で、漢方製剤の売上は激減、4年後には副作用前の3割以上減に。

上記の経営危機に加えて、薬価改訂により、漢方薬の卸価格がどんどんさがっていた!(この12年間で3割ダウン)

こうした厳しい状況を跳ね返し、売上はV字回復。苦しいリストラ、損失処理、子会社整理、販管費の削減。
そして営業利益率20%超、漢方製剤市場でのシェア80%を超える超優良企業に生まれ変わったのです。

「思い」+「高い戦略性」による営業改革

真っ先に手をつけたのは、営業改革でした。
当時は漢方市場が未熟だったこともあり、営業先は開業医を中心に、関心を持ってくれる一部の医師のみ。
開業医の高齢化とともに売上も下がる、という笑えない状況も。
そこで、芳井社長が陣頭指揮を取る形で、医師へのローラー調査を実施。
「なぜ漢方を使うのか?」
答えは皆、同じでした。「(ある症状において)西洋医学で効かないものに漢方が劇的に効く。なぜ効くのか理由は分からない・・」
というものでした。
漢方の潜在需要は大きいが、納得できるエビデンスがない事が伸び悩みの原因となっている。

そこで、芳井社長がとった新規開拓のローラー作戦は、以下のようなものでした。
・大学病院を中心に新規開拓する
・MR969人に対し、一人10人の医者にアタック
・西洋医学が効かないけれど、漢方ですぐに効果がでる製剤2種を試してもらう
漢方の効果を実感してもらったタイミングで、今度はじわじわ効果がでるものを持っていく

一定のカルテがたまった段階に至ると、「ある体質の患者には効果があるがある体質の患者には効果がない」
ことが浮き彫りになる。
漢方特有の”性”を、医者に体感してもらえる瞬間です。
興味をもった医者にセミナー等、さらなる勉強の機会を提供し、結果として市場を広げる。

素晴らしいのは戦術だけではなく、その裏にある使命感でした。

「大事なことは,医者が喜んでくれること。即ち、患者さんを助けること」
「西洋医学が効かないものに、漢方が効く。全国の医師が西洋医学と漢方の両方を学んでくれたら、日本の医療は変わる」
「それこそが、ツムラの使命」

そして、大胆な、社会の仕組みへの働きかけ。
漢方を広げるには、医師国家試験に漢方の問題が出題されるようになること。
そのために、80ある大学医学部をターゲットに、
・漢方医学教育をカリキュラムに組み込んでもらう
・臨床の意味で,漢方外来を設置してもらう
現在では、8コマ以上を必修とした大学が79校、漢方外来を設置した大学が79校とのことで、あとは、市場が成熟していくのみというわけです。

芳井社長は言いました。
「いいものは浸透が早い。会社の使命を伝え、医者の使命が共感し合えば、スピードアップする」

本当に人のためになるものは、共感力が強く、広がるスピードも速い。
「だから迷わずに突き進め!」
そうおっしゃっているように感じました。

安心安全な生薬確保こそ最大の経営課題

漢方の原料は生薬(写真参照)。だからツムラでは、安心安全な生薬の安定確保が、重要な経営課題です。

ツムラで取り扱う生薬は118類!その80%が中国からの輸入です。生薬の栽培(農業)と、倉庫での保管(設備投資)のバランスはとても難しいそうです。すぐに育つ生薬もあれば、成長に8年間もかかるものもある。需要が増えて乱獲してしまうと生薬を取り尽くしてしまうし、需要が一定量を下回ると設備投資が出来なくなってしまう。。漢方市場が益々大きくなる中、需要と共有のバランスを維持するのが重要課題です。
加えて、栽培してから実際に患者さんに薬が届くまで、品質管理を徹底するために、トレーサビリティーに力を入れています。
これは、芳井社長が、ある時スーパーの野菜売り場で農家の人の顔写真入り野菜を見ていて、「漢方でもこれを導入しよう」と思い立ったそうです。

「安定確保」そして「トレーサビリティー」。
中国の生産地とも、栽培方法や品質管理方法等を指導するなどしっかりとした信頼関係を築いているものの、管理栽培が出来る自社栽培農場がほしいということで計画されたのが、ラオス、夕張の大規模自社農場です。

○ラオスの農場
ラオスの農場には、ベトナム戦争の余波で、今でもクラスター爆弾が埋まっているとのことでした。
100haの農場を開拓するには、まずはクラスター爆弾を取り除かないといけない。通常は60cm程度掘り返せばよいところを、ツムラは3mまで掘り起こして撤去作業をしたとのこと。そして、働く人の為に、近くに学校をつくり、150人の生徒の足のサイズを調べて靴を提供し、制服も用意。芳井社長自らが、一人ひとりに手渡したそうです。
ラオスの経済活性化につながり、しかも人が安心して笑顔で暮らせる。
その人たちが栽培した生薬から漢方がつくられ、多くの患者が救われる。
なんて大きな幸せの輪なのでしょう!
ちなみに芳井社長は、100haを1000haに拡大。これには正負にODAを要請し、その通りになったとのことです。
やることが、カッコいいですよね。

○夕張
何年か前に、夕張市が経営破綻しました。
芳井社長にとっては、辛かった日々が思い起こされ、他人事ではなかったようです。
そこで、「夕張市の経済活性化に貢献したい」と思い、検討。
地理的要因から、国内に農場があるメリット、生薬を保管する際の室温15度を超える日が、夕張市では年間30日しかないことによる管理費のメリット等から、夕張市、ツムラ、また株主にも納得してもらえると判断したそうです。
さらに、ハルニレの里という障がい者の団体とのご縁が出来て、障がい者の雇用創出にもなっている。

優れた品質の漢方薬をつくり患者を救うこと自体が、素晴らしい社会貢献。
それが、地域社会の活性化や、自然環境保護につながるのであれば、幸せの輪は限りなく大きくなる。
その発端は、「困っている人を助けたい」という、とてもシンプルだけど、強い意志なのだと思いました。

ツムラさんのCSRリポートは、いわゆる事業報告書と言っても差し支えのない内容で、驚きました。
ツムラさんの経営理念は「自然と健康を科学する」
基本記帳は「社会や人々のお役に立てる企業・人にやさしい企業」です。
CSRは本業そのものであり、理念の実践です。そのことが実現された時には、ツムラさんのように、CSRリポートと事業報告書は同一のものになるのだと思いました。